読書日記 『手紙』 東野圭吾著・文春文庫



 久しぶりに手に取った、東野圭吾の一冊。
 実際には「容疑者Ⅹの献身」以来だが、
 映画化ということで、ミーハーにも読んでみることにした。




 読後の感想は、良い意味でも悪い意味でもコトバが出て来ない。
 個人的に東野圭吾が好きなところとして、ストーリーの進展とともに、
 様々な伏線が絡み合っていく、ロジカルなところなんですが、
 この『手紙』は見事にそういったのがないんですね。


 あれっ、これ東野圭吾の作品なん?って読後に思いました。
 今まで読んできた作品が偏ってたせいかもしれませんが、
 あまり東野圭吾っぽくない本だなと思います。


 中身自体は、純粋に面白いと思います。
 扱ってるテーマはナイーブですが、私個人としてはなるほどと思わせてくれる
 切り口があったりと、犯罪に纏わる『被害者』と『加害者』を考える上で、
 非常に面白いと思います。


 普段真剣に考えることがない一方、いつ自分がこういった状況に陥るかは
 わからないと言った意味では、一読の価値はあると思います。


 昨今の諸問題と一緒にされると困るんですが、
 いろいろと考えさせられるんですが、中にイヤに後に残る一節がありました。
 『差別は、当然なんだよ』
 という主人公の会社の社長の言葉。
 人間の『死』が、肉体的・精神的・社会的な側面を持っていること、
 昔勉強したとおり、言葉としては知っていてもなかなか具体的な事象として、
 『社会的な死』を想像できなかったけど、この本を読んで、『社会的』のもつ
 意味を漠然とイメージすることが出来た気がします。 


 そういう意味では個人的に、由美子と社長が好きでしたね。
 終盤にかけてこの二人が主人公に与える言葉や方向性が、
 東野圭吾がこの作品で一番言いたかったことなんじゃないかなと思います。
 善悪や正否ではなく、この作品のテーマに対する思想がこの二人の登場人物に
 現れてる気がします。




 どうでもいいけど、映画版の沢尻エリカと作品中の由美子のイメージが
 全くかぶらないのは俺だけなんでしょうかね。
 映画を見に行くべきか悩みどころだな。